クラッシュ症候群

1) 位置づけ
 阪神大震災で多数の患者(372名)が報告されています。しかしこれは後
 から病院のカルテを調べたものです。当時はクラッシュ症候群は医師にも
 あまり知られていませんでした。病院にたどり着かずに突然死した人たち
 が語り継がれており、実際はもっと多かったと思われます。阪神大震災で
 病院にたどりついてから死んだ一番多い原因でした。
2) 目標
 東海地震でも多数の建物の倒壊が想定されており、クラッシュ症候群は最
 大の命の問題です。阪神の経験を静岡で活かしたい。
3) クラッシュ症候群とは何か
[図1]  血液の流れを示しています。
心臓から出た血液は赤い線の動脈を通り体中に
流れ、青い線の静脈を通って心臓に戻ってきます。

[2]
下肢の筋肉が圧迫されて、動脈も静脈も血流
遮断されています。

[3]
この状態が長く続くと、筋肉の細胞の膜が壊れ、
横紋筋融解症になります。
しかしここ以外の体は普通に機能しており
意識も呼吸も血圧も保たれています。
[4]
ここで圧迫が開放されると、筋肉にも再び血液が
流れ始めます(再還流)。

しかし細胞の膜がこわれているために、細胞の中に
水が取り込まれていきます。その結果体循環の水分が
減り脱水となり、急性腎不全を起こしてきます。
この予防、治療には大量の水分補給が必要です。点滴するのがベストですが
 医師がいない状況では水分をたくさん飲ませてください。

 またこわれた筋肉細胞からカリウム、ミオグロビンなどが静脈、体循環に流
 れこんできます。カリウムは高くなると瞬間的に心臓を止めます。元気だっ
 た人がクラッシュ症候群で急速に状態が悪化し死に至るのは高カリウム血症
 が原因です。
 この治療は血液透析をするしかありません。
 4) 見分け方
 呼吸、血圧、意識などいわゆるバイタルサインに異常はみとめません。
 尿が出ると赤ワイン色の尿が出ますが、殆どの患者さんは脱水になっている
 と思われ、輸液し導尿しないと出ないかもしれません。
 クラッシュ症候群の診断は、疑わないと気づかないと思われます。

 私たちのNPOでは2時間以上挟まれていた 
           
挟まれていたところの末梢に麻痺がある 
 この二つがそろえばクラッシュ症候群を疑うことにしています。
 麻痺というのは、長いこと正座しているとつねっても分からない、動かそう
 としても動かない、あの状態です。

 勿論、カリウム値、CPK,ミオグロビン定量などの血液検査をすれば診断
 がつきますが、現場では不可能だし、病院でも、検査機能も低下しあふれる
 患者に対応する中でこのような検査はできないかもしれません。
5) 治療
 救出時から水分の補給は必ず必要です。医師がいれば勿論輸液ですが、東海
 地震の静岡では、現場に医師がいる可能性は低いです。一般の人にできるこ
 とは、水分を飲ませることです。できればスポーツドリンクが良いですが、
 水かお茶でも良いでしょう。輸液では最初1時間に1Lくらいの速さで入れ
 ますが、経口ではできるだけ飲ませるという程度になるでしょう。

 救出したら、透析できる施設にできるだけ早く運ぶ必要があります。
 最重傷患者です。
 病院に着いたら『クラッシュ症候群の疑い!』と大きな声で伝えましょう。

 もう一つ、有効な対策として挟まれていた所の中枢で縛る方法があります。
 筋肉からカリウムなどが戻るのを、病院に着くまで防ぐ目的です。

 これには二つの問題があります。
 一つは現場で一般の人が縛るのでは、タオル、ゴム、などを使って思い切り
 締めても動脈を止めるのが難しいのです。ただ静脈を止めて戻る血を止める
 のでも短期間なら有効かもしれません。

 もう一つは、地震では救急車が来る可能性は殆どなく道路も遮断され、普段
 なら車で
10分の病院までの時間も何時間もかかるかもしれません。すると
 縛ったことで血行障害を余計に悪くする可能性があります。

 現在静岡では、病院に担いででも運べる地域には、クラッシュ症候群をしっ
 かり教えた上で縛って搬送することを教えています。

 1時間で確実に病院に送り込める見込みがなければ縛るな、と教えています。
6) 市民にクラッシュ症候群対応を教える理由
 東海地震では災害の被害数に対し、救出する側の人間の数が圧倒的に少ない
 のです。例として旧静岡市の被害想定数を取ります。

 死者          701

 重傷者      2,625                   これに対して          消防   470
 中等傷   11,977                                 消防団 1,300
 生き埋め  3,803
 建物大破              15,853
 火災による建物焼失 24,156棟 

 どう考えても消防にやり切れる数ではなく、阪神大震災では建物の下敷きの
 救出は80%を市民が行っており、東海地震でも救出の主体は市民になると
 思われます。市民にクラッシュ症候群対応を教えている理由です。
7)まとめ
 倒壊家屋が多数発生する都会型の大地震では、クラッシュ症候群対策が最大
 の問題です。東海地震のように広域での被害が想定されていると、災害現場
 での救出の主役は住民である可能性が高い。クラッシュ症候群対応は、医療
 機関や消防が理解するだけではとても届かない。市民にクラッシュ症候群を
 教えるなかで、救出から、トリアージ、病院への搬送も市民の仕事、という
 意識を求めていく必要があります。